プロジェクトの目的

小児がんの子どもとご家族に輝く記憶のプレゼントを。

小児がんは国内だけで年間約2,500名が発症し、そのうち7~8割が治る病気です。しかし、副作用の強い治療のため子どもも家族もつらい時間を過ごさなくてはならず、長期に及ぶ入院生活や再発の不安など、お子さま自身とご家族にとっての身体的・精神的・経済的負担は計りしれません。

そんな子どもたちと家族に、外出や旅行を通じてかけがえのない時間を過ごしてもらいたい。それがスマイルスマイルプロジェクトの理念です。

「治療が終わったら家族で旅行に行きたい!」「もう一度、あの場所に連れて行ってやりたい」
治療が一段落した時、あるいは治療の限界を突きつけられた時、厳しい闘病生活の中にある子どもと家族に“生涯深く心に残る輝く記憶の時間”をプレゼントできるよう、私たちは活動しています。

そこで得た時間が、次の治療への原動力や、再発への恐怖を乗り越えるきっかけに繋がるように。子どもの笑顔が、家族の笑顔が、大きな力となって前に進んでいけるように――

専任の医療者スタッフがいるからこそ可能なプログラム

小児がんのお子さまとそのご家族にとって、外出・旅行への不安の一つに医療者から離れてしまうことが挙げられます。そして、現状の日本では、医療者は病院業務に拘束され、そういった機会には同行できないのが実情です。
スマイルスマイルプロジェクトは、当活動の専任であるジャパンハートの医療者が付き添うため、そのようなご家族の不安をやわらげ、外出・旅行を実現することが可能となります。

活動経緯

前川育さんというひとりのお母さまとの出会いがスマイルスマイルプロジェクトの始まりです。

1985年、前川育さんのご長男・武文くんは4歳で急性骨髄性白血病と診断され、医師から「治療法がない」と宣告されました。治療の影響で髪が抜け、顔は丸くむくみ、6歳4ヶ月までの約2年間はつらい治療に耐え続けた時間だったそうです。
そのような中でも、一時退院したときにずっと乗りたがっていた飛行機に初めて乗ることができ、嬉しそうにする武文くんの笑顔は前川さんにとって忘れられない記憶になっているそうです。

前川さんが亡き武文くんを偲んで書かれた詩を紹介します。

もしも息子が一週間だけこの世に帰ってきてくれたら
大好きだったハンバーグを食べさせ、
飛行機に乗ってディズニーランドへ、
日が暮れるまでキャッチボール、
そして最後の一日は、一日中抱っこさせて。

前川さんのような小児がんと向き合うご家族の後悔をひとつでも減らしたい。
そして当事者である子どもたちが、治療中であっても子どもらしい時間を過ごすことができ、家族と大切な思い出を作りたいと思ったときにそっと寄り添いたい。

このようなきっかけから私たちの活動は始まりました。
スマイルスマイルプロジェクトの母体であるジャパンハートの理念にもあるように、
「目の前のひとりの生まれてきて良かった」のために、一人ひとりと向き合うことを大切にしています。

代表メッセージ

2004年に創立されたジャパンハートには、現在病院を飛び出して国内外で活動する医療者がたくさん在籍しています。

彼らが病院の外にいるからこそ、社会に貢献できることがもっとあるのではないかとずっと考えていました。
そんな時、ジャパンハートの創設者である吉岡秀人が勤務医時代のつらいストーリーを医療者たちに語る機会があり、今こそ小児がんと向き合う子どもたちと家族が素敵な時間を過ごすために、私たちにできることから始めよう!と、この活動をスタートさせました。

スマイルスマイルプロジェクトには、小児がんと向き合う子どもも、ご家族も、医療者もみんなが笑顔になれる医療を目指そう!という意味が込められています。
治療を乗り越えたとき、命の時間を意識したときにもう一度家族であの場所に行きたい、子どもが希望する場所に連れて行ってやりたいという願いを医療者が協力することでひとつずつ大切に実現しています。

病気と向き合う子どもたちに最高の医療を届けるために医療者も日々奮闘しています。
しかし、「もうこの子どもに『治すための医療』を届けることができない」とわかったとき、医療者も実はとてもつらい思いをしています。
そんな時、「子どもたちが家族とかけがえのない時間を過ごすために力を尽くすことも医療のひとつの形だ」と医療の意味を改めてとらえることができれば、日本の医療の質はよりよいものとなるのではないか、そして一番つらい時期に頑張っている子どもたちの笑顔を増やす行為を家族と医療者が共有することで、医療をとりまく人々の信頼関係はより深いものになるのではないかと思います。

いまはジャパンハートに所属する医療者が中心となってこの活動を進めていますが、少しずつ院内に勤務する医療者もボランティアで関わってくれるようになっています。
この輪がもっともっと広がって大きな渦となれば、小児がんと向き合う子どもたちやご家族が闘病中であっても一番よいタイミングで素敵な時間を過ごすことができるようになるでしょう。
そのような時間を実現することも医療の一つであると社会に浸透するまで、スマイルスマイルプロジェクトは活動を続けます。

スマイルスマイルプロジェクト
プロジェクトリーダー/小児科医師 吉岡春菜

吉岡春菜
吉岡春菜プロフィール
  • 1979年:大阪府生まれ。
  • 2003年:医学部卒業後、独立行政法人国立病院機構岡山医療センターで小児科専門研修を受ける。同年末にジャパンハート最高顧問の吉岡秀人と結婚。
  • 2004年:ミャンマーに渡り、ジャパンハート国際医師実地研修に参加。
  • 2005年:帰国後は岡山県内の市中病院に勤務しながらジャパンハートの活動に関わる。
  • 2011年:東日本大震災の医療支援をきっかけに病院を退職し、ジャパンハートに入職。
  • 2012年:ミャンマーに家族で渡り、国内外の医療活動に従事する。
  • 2014年:家族と共に帰国。東日本大震災医療支援活動と共に、「スマイルスマイルプロジェクト」のプロジェクトリーダーを担当。
  • 2017年:ジャパンハート理事長に就任。現在にいたる。